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風花という語について、身体と自然(随筆)

皆さんは「風花」という言葉をご存知だろうか。広辞苑によれば「晴天にちらつく雪。風上の降雪地から風に送られてまばらに飛来する雪。」とあり、冬の季語である。

いくつか風花の句を挙げると

 

風花や湯気にまかれて牛の腹

中西夕紀

 

美し(うるわし)の塔に風花かぎりなし

岡田日郎

 

風花や貌あげて鳴くとりけもの

長篠旅平

 

風に吹かれた花のような雪ということだろうか。

 

私は出石と言う町で風花を見たことがある。

 

小学生のとき、親に連れられ、兵庫県北部にある出石へ行った。ぐじゃっと握りつぶした紙を広げたような丘陵地帯の中に出石はある。城下町の面影を残しており今でも、黒々とした木造の藩屋敷が続いており、木炭のように黒い城門がそびえている。そういえば出石は幕末に幕府のお尋ね者となった桂小五郎(後の木戸孝允)が潜伏した地でもある。禁門の変で敗れた彼は甚助・直蔵という兄弟にかくまわれた。また近くには志賀直哉の「城の崎にて」の舞台となった城崎温泉もある。どうも出石は世間から隠れたい者を引き寄せる魅力があるのだろうか。私が行ったときは正月だったので、黒い城下町に白い雪が降り積み、美しいコントラストを描いていた。蕎麦屋に家族で立ち寄り、店の窓から池が見えた。その池に風花がちらりちらりと舞っていたのである。

 そんな情景を思い出しつつ、ふと気になって「風花」を広辞苑で引いた。三番目の意味に興味をそそられた。「かざほろし」の意だという。更に広辞苑を引くと、かざほろしとは「発熱のあとに生じる皮膚の発疹。風邪によるものとされた」とある。病気の意だという。おもしろくなっていくつかの辞書を引いてみたが、それ以上はおもしろい情報は出てこず、わずかにかぜほろしの別名であるほろし(疿子)がじんましんの古称であることがわかったぐらいであった。しかし古人は、「かざはな」という語に風流な意味をこめながらも、同時にふつふつと発疹する赤いじんましんも連想するとは不思議なものである。

 今度は「日本語源辞典」で「風」を引いてみた。それによると「風」は古代中国では「大気の動き」とともに「肉体に何らかの影響を与える原因」、さらには「影響を受けた肉体」も意味し、平安時代初期に「風を引く」(感冒、つまりくしゃみ、鼻水、発熱の症状に限らず、腹の病気や神経性疾患など幅広く意味したという)との用例も見られるという。つまり「風」は病気全般を意味したといえよう。ちなみに近世では「風邪」は「ふうじゃ」と読み、感冒を指し、病気の「かぜ」に「風邪」をあてるようになったのは近代、明治以降らしい。ややこしいがまず病気の意味の「かぜ(風)」があって、そこにあとから「ふうじゃ」と読む「風邪」という語をあてたということだろう。

 ここからは想像だが、改めて「風花」という語を見ていると、古人は悪いものを「風」が持ってくると思い、さらにその後の発疹を「花」に例えたのだろうか。また発熱や倦怠感、じんましんといった苦しみが「雪」のように消えて欲しいと願ったのだろうか。もしそうだとしたら、自らの身体を自然と重ね合わせる古人の鷹揚さに生命力の強さすら感じるのである。

 

肌にふつふつと発疹する赤い蕁麻疹も野に咲く花だと思えばかわいい…いや、やはりそれはない。