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裕福な虐待(中学受験)

ツイッターで「東大を舐めているすべての人たちへ」というnoteが爆発的に読まれています。

https://note.mu/tonoike0604/n/n611642c5f61c

 

大受験の過程もそうですが、中学受験とそれに付随する親の虐待に関心が集まっているように思います。地獄の蓋を開けてしまった感じがあります。

中学受験をする人は全国の8%(ベネッセ)、さらに有名私立といえばさらにその一握りです。ほとんどの人にとって身近ではないでしょう。

https://berd.benesse.jp/berd/center/open/report/chugaku_sentaku/2008_hon/pdf/data_11.pdf

 

コジキ東大さんはおそらく都内で育ったのでしょう。一方、僕は地方出身です。地方ではさらに珍しい私立中学受験について個人的な実体験に基づきながら述べていきたいと思います。僕は地方出身で私立中高一貫校を卒業しました。出身校は東洋経済のつくったランキング「最難関大学に合格の多い高校」で30位以内にいたので進学校卒業生といってよいでしょう。

 

Q1 コジキ東大さんの虐待じみた中学受験、あれは誇張じゃないの?

 

個人的には十分ありうる話だと思います。珍しくはないですね。まぁ僕も後から振り返れば「あれ?虐待じゃね?」みたいなことはありましたし、周りも程度の差はあれ似たような経験をしていました。

もちろんそんな経験なく過ごし、無事合格を勝ち取った生徒もいるのでご安心ください。

 

Q2 なんで親はそんなヒートアップするの?

これはいくつかの分類ができるかと思います。

①親がエリートの場合

「なんで優秀な俺の息子ができないんだ!」という自己と子供が分離できていない場合があります。

②親が非エリート(ただし大卒)

中学受験というものがわからず「とにかく塾や先生の言うことを聞かないと!」と喧しく子どもに発破をかけます。地獄ですね。

③ヒステリック専業主婦

中学受験の家庭は裕福層が多く、専業主婦も多いです。そして教育に関心のある親ほど子どもの教育にのめり込みます。子どもの成功こそが我が人生。鬱屈したエネルギーは中学受験へと投入されます。塾への送り迎え、塾や学校の選別、子どもの時間管理、金銭管理、食事、そして日常の家事…親というより秘書ですね。当初は子どもへの愛情であった教育熱も、いつのまにか消えかかる親のアイデンティティを満たすための道具になるわけです。この子を合格させた私偉い、と。こうしてヒステリック教育ママの完成です。

④周囲の目線

都心であれば周囲との競争、地方であれば裕福層へのひがみやっかみ興味です。どちらも子供に地獄です。

⑤かけてきたコスト

年100万近くの教育費に見合った成績を求めます。(まるで工場みたいだね!)

⑥時代の風潮

おそらくですが僕の生まれた年代(90年代)は大変経済的に不安定な時代だったことが影響しているかなと思います。

バブル崩壊、平成不況、就職氷河期、大手金融企業の倒産…。

親としてはこの不安定な時代を乗り切るために我が子には高学歴になってほしい(願わくば医者)という思いがあるのでしょう。しかし子どもたちがうけた暴力の記憶は一生消えません。

 

⑦公教育への不信

これも根強いですね。本来、近代以降公教育は格差是正を担ってきたわけですが、公教育への不信から私立教育への期待、結果的に「2015年東大合格者数、中高一貫校がトップ10独占」となるわけです。

荒れた公立学校を経験した親からすると我が子は私立に行って欲しいと願うのでしょう。

https://s.resemom.jp/article/2015/04/15/24076.html

 

これらの複合的要因のもと、狂気の受験親は誕生します。

 

それからついでに言うと塾に通う中学受験生は毎週全国模試を受け、毎週偏差値で分類され、習熟度別に細かく分類されます。

僕のときはレベルの高い順にS、C、B、Aに分けられ、さらにその組の中で1組から20組ぐらいまで分けられていました。例えば「Bの7組」みたいな。ざっと80組に分類されるわけです。そこでレベル別に受けるテスト、テキスト、授業、講師が決まっていくわけです。

これを小4からやり始めると三年間、毎週やります。一年が約50週あるのでだいたい150回くらいでしょうか。

 

10歳の少年少女たちが親の凄まじい期待のもと、塾に通い詰め、150回の選別に耐え、受験合格を目指すわけです。

 

Q3地方進学校でどんな感じ?

まず圧倒的に親が医者です。あとは銀行員、自営業、教師、インフラ系サラリーマン、議員、公務員。こんなところでしょうか。もちろん一人一人調べたわけではないですが、体感で生徒の親の三分の一は医者ですね。それが普通だと思って生きてきました。

大袈裟ですが「お前んち、何科?」みたいな世界です。

 

Q3 私立中高一貫校に進学するメリットは?

A周りのレベルが高い

勉強はもちろん、文化的な才能や芸術的な才能、囲碁や将棋、さらにはスポーツでも才能を持った子たちが集まります。親が勉強とともにたっぷり教育費を投じているのもあるでしょう。勉強に関していえば僕の同期の学年トップは高1、高2の時点で東大に受かるレベルにありました。 

他にもある気がしますが、メリットはこの辺で。

 

都内進学校との違い

①母校愛が強くなる

これは都心との違いですが、地方進学校は母校愛が強いように感じます。僕が都内の大学に進学してから都内進学校出身の友人と話していると母校に対し、ドライだなと印象を受けました。話を聞いていくうちにやはり彼らは都内の御三家と自らの高校を比較し、よく言えば客観視、悪く言えば卑下しているように感じました。御三家の人たちはやはり愛校心が強いなと感じます。

 

その点、地方進学校は地方では圧倒的な進学率を誇るので、あまり近くの他校と比較する感覚を持ちません。だから母校への肯定感というか、母校愛を持ちやすいのかなと感じました。(もちろん個人差はあります)悪い方向に行けば鳥なき里の蝙蝠ですが…

 

都内は中学受験校がたくさんあります。僕は都内の家庭教師を5年やりましたが、教え子が四谷大塚の偏差値分布表を見ながら「僕の学校はここか」と偏差値表の下のほうを指差したときの悲しい目が忘れられません。

 

②地方での孤立

孤立というと言い過ぎですが人によっては

・公立小の先生から嫌味を言われる(僕の担任は幸い理解のある先生でした)

・小6あたりから「あいつは違うから」と敬遠される

・友人達と話が合わなくなる

・町ぐるみで注目される

などあります。

そもそも地方で私立中学受験をするって「数年に一人」とかのレベルです。都内なら「毎年クラスの三分の一とか少なくとも数人はするかな」です。そんな珍しいものではない。

 

僕も受験に落ちたら近くのみんなに知られる、恥ずかしい、死にたいとか思っていました。小学生の見える世界って狭いじゃないですか。当時はインターネットの普及も現在ほどではないですし。さらに親によっては小6の追い込み期に学校を休ませまくったり、特別扱いを要求したりするので、どっちもどっちです。

 

<最後に(親、教育、受験業界の人に読んでほしい…)>

さてつらつらと中学受験について個人的な経験に基づいて述べてきましたが、一番述べたいのはここです。

まず親御さん、子どもは「もの」や数字じゃありません。人間です。暴力を振るわないでほしい。特に中学受験は多大なるコストがかかり大人ですら熱くなります。「あんたにいくらかかっていると思っているのよ!」知りません。あなたが決めたことでしょう?

難しいのは暴力を受けながらも中学受験に成功し、大学や就職にもある程度成功してしまうとこのような暴力も肯定されえることでしょう。犠牲者が出て初めて社会は動きます。

そして子どもも親に反論できないのです。経済的にも肉体的にも大人に勝てるわけがありません。

親のプレッシャーは多大な期待の裏返し、山のようなテキストとテストは親の財産のおかげ、そして勉強から解放されれば他の家庭より明らかに裕福な生活…愛情と暴力は紙一重です。そして子どもは暴力を愛情と書き換えるしか生きる術がありません。

 

次に教育業界の皆さん。おそらく中学受験業界に関わっていると「虐待じゃね?」みたいは雰囲気を察することが多々あると思います。しかし日本の法整備では家庭内に干渉することは困難です。学校も難しいですし、その余裕もない。(中学受験ではないですが目黒の虐待事件が記憶に新しいですね)

子どもと密に接し、受験業界に関わる人に家庭内暴力を解決せよとは当然言えませんが、せめて傷ついた子ども達をうまく癒してほしいです。僕も塾の先生が大好きでした。

 

貧困によっておこる虐待もあれば、裕福によっておこる虐待もある。人間の難しさを感じます。

 

冒頭に述べた通り中学受験生は全国の8パーセントしかいません。この中学受験の実態の一部をお伝えすることで、中学受験を考えている親子や受験業界の方、中学受験に関心のある人に参考になれば幸いです。

 

願わくばかつての僕のように死すら一瞬意識するほどの苦しみを背負った中学受験生の微かな光とならんことを。

 

続編「中学受験をしてよかったこと」

http://junildivo.hatenablog.com/entry/2019/01/07/210238