おもしろくて受験や勉強に役立つ漫画(倫理・法律・世界史)
今回は少し趣向を変えて受験や勉強に役に立つ漫画を紹介します。
①「ここは今から倫理です」
「倫理は学ばなくても将来、困る事はほぼ無い学問です」
「地理や歴史の様に生活する上で触れる事は多くないし 数学の様な汎用性も 英語の様な実用性もありません」
「この授業で得た知識が役に立つ仕事は ほぼ無い」
「この知識が役に立つ場面があるとすれば」
「死が近づいた時とか」「信じられるものがなくなった時」「人間関係がうまくいかない」「私は何の為に生きている?」「『男はこうあるべき』『女はこうしなきゃダメ』とか」「死にたい」
「どうですか 別に知らなくてもいいけど 知っておいた方がいい気はしませんか」
高校の倫理教師、高柳は教壇の上でこう言い放ちます。
そして倫理の授業に魅せられた悩める生徒たちが、反発しつつも高柳のもとで「倫理」を学んでいきます。生徒たちの悩みは様々です。
周りの男性に体を売る女子生徒、「すべて本から学べる」と断言する成績優秀な女子生徒、いじめられっこで教師を目指す男子生徒、親や担任に打ち明けられない性癖を持つ女子生徒…
高柳はフランシス・ベーコンを、ゴータマ・シッタールダを、ソクラテスを、キルケゴールを引用しつつ生徒たちの悩みに向き合ってゆきます。
これだけならあまり僕自身も魅力を感じないのですが、個人的には高柳もともに真剣に悩む姿が美しいです。高柳は生徒たちの悩みを引き受けながらも、同時に自身もその悩みを吐露し、懊悩し、切実です。
「煙草をやめられない」「悩みのない人間に興味を持てない」「ユーモアがない」
高柳は生徒たちに倫理を説くとともに、自身も倫理的であろうと欲望や未熟と向き合います。
受験で倫理を使うことはないかもしれませんが、文系に進むのであれば哲学・倫理は触れざるを得ないでしょう。そうでなくても企業でもコンプライアンスが叫ばれる世の中です。
ただそういった実用性から説かなくても、生きている以上は倫理的問題にぶつからざるを得ません。とても良い漫画だと思います。
②「正直不動産」
登坂不動産のトップ営業マンである永瀬財地は巧みな話術で日々、売り上げを伸ばしていく。しかしあるとき地鎮祭で石碑を壊して以来、嘘が上手くつけなくなってしまい、客の前でも上司の前でも本音しか言えなくなる。その結果、営業成績が落ち、港区のタワマンを手放し安賃貸に住むことになる。悩んだ永瀬は正直不動産として再びトップ営業マンを目指す。
民法や借地借家法、賃貸借契約といった日常生活で非常に重要な法律が出てきます。僕は暇つぶしで宅建の資格を取っていたり、民法、借地借家法を勉強していたのでとても楽しめました。
これらについて書き出すときりがないですし、第一僕は法律のプロではないのであまり無責任なことは言えませんが、借地借家法の概要だけ簡単に紹介したいと思います。
1なぜ借地借家法が存在するのか?
一言でいうと賃借人・借家人の地位が法的にとても弱いからです。その弱さを補うのが借地借家法です。
2なぜ弱いのか?
賃借権が債権なのに対し、所有権が物権だからです。
債権とは人に対する権利です。一方、物権は物に対する権利です。
債権は例えば10万円の借金を相手に請求するシーンを想像してください。
物権は例えば家を所有するとか、バイクが盗まれて取り返そうとするシーンを思いうかべてください。
3なぜ物権はこのように強いのか
物権は債権に対し「優先的効力」があるからです。物権>債権です。
この具体例として「売買は賃貸借を破る」という言葉があります。(ローマ法の原則らしいです)
売買契約(物権、所有権)と賃貸借契約(債権、賃借権)なら売買契約が優先されるということです。
このような力関係が社会問題に発展しました。それが地震売買です。
地震売買とは耐震偽装ではありません。地震が起きたように借地人の建物が破壊されることから名づけられました。
4地震売買とは
例えば賃借人Bが地主Aに土地を借りているとします(賃貸借契約)。しかし地主Aが他人Cにその土地の所有権を譲渡した場合(売買契約)、Cに対して賃借権を主張することはできません。所有権である物権と賃借権である債権ならば所有権の物権が優先されるからです。したがって、賃借人Bが建物を建てて住んでいる場合にも、新所有者Cからの建物収去・土地明け渡し請求に応じなければならないわけです。ひどいですね。
もう少し詳しく言うと民法605条とか登記の共同申請とか話は広がるのですが、知りたい方は内田貴「民法Ⅱ」(東京大学出版会)227ページをご覧ください。
このような地震売買が日露戦争後、頻発し社会問題になります。例えば賃料を上げたい地主が賃借人に賃料の値上げを拒否されたら、ほかの第三者に土地を譲ってしまえば賃借人を追い出せるわけです。
どうも文献によると民法典の起草者は借地の際には地上権という物権が使われることを想定していたようですが、現実には地主といった土地所有者の方が経済的・社会的に強く、このような問題が起こったようです。(内田貴「民法Ⅱ」p178)
5建物保護法の制定
これではいけないと政府は建物保護法を制定し、借地権の保護を図りました。さらに借地借家法を制定しました。この借地借家法の狙いを簡単に言うと「賃借権の物権化」です。債権であった賃借権を物権化することで、物権である所有権と対抗させるということです。
またこれ以降、建物所有の借地権の存続期間を長期化したり、正当事由がないと更新拒絶ができないなど借地人の法的な保護を図ってきました。
さてここまで長々とお話しした通り、賃借人は法的に立場が弱く、それを借地借家法が補ってきたということを説明してきました。(ちなみにこの場合、所有権や賃借権を規定している民法が「一般法」であり、それを補う借地借家法を「特別法」という。原則的には民法を適用するが、借地借家となったら特別法を適用するということです。)
が、これらの法律を知らなければ不動産屋や地主に言いくるめられてしまうわけです。せっかく法的保護を図っても、情報格差があれば意味がないわけです。勉強って大事ですね。僕は法律を勉強してから契約書など一通り見る癖をつけました。とくに契約書などは両者の合意が必要なので、質問があれば担当者にどんどん聞いて、録音までしておくと後々有利かもしれません。
その意味でこの「正直不動産」はとても勉強になる作品でした。
③「チェーザレ 破壊の創造者」
今度は世界史です。中世ヨーロッパ、とくにイタリア、ルネッサンス期を舞台にしています。主人公はチェーザレ・ボルジア。イタリア語であるチェーザレはラテン語ではカエサル。ローマ帝国の英雄、カエサルの名を冠された男の物語です。
レオナルド・ダ・ヴィンチやマキァヴェッリといった著名人も登場し、大変勉強になります。
漫画もすごいですが、あとがきや用語集が充実しています。監修にダンテ学者の原基晶先生を迎えていたり、マキャベリの研究で有名な佐々木毅東大教授のコラムがあったりと豪華です。
「カノッサの屈辱」「レコンキスタ」「ダンテの神曲」など世界史でもよく出るフレーズが作中に織り込まれており、世界史の教科書を眺めているだけより理解が深まります。
しかし残念ながら11巻以降が出ておらず、未完です。気長に待ちたいものです。
ざっくりいうとルネッサンス期におけるイタリアでの権謀術数を渡り歩く名家ボルジア家の次男、チェーザレの生涯です。しかし11巻ではまだチェーザレは政治の表舞台にまだ出ていない状況であり、それまでは父の政治を補佐しつつ、大学生活を謳歌するところまでです。それでもおもしろいですけどね。
以上で紹介を終わります。